GI – Beyond “Being Right

義とは「正しさ」ではなく、人としての関係性

— 武士道・職人の気質・映画『覇王別姫』が教えてくれるもの

子供の頃、祖父は毎週のように時代劇を楽しみに見ていました。
刀を振り回して悪党をやっつける——そんな痛快なシーンが見どころだと思っていましたが、毎回ストーリーは違っても、最後はいつも同じような結末でした。
悪いことをした人が改心して、新しい人生を歩き始める。
つまり、勧善懲悪の物語です。

子供の私には、終わりがわかっているのになぜ飽きずに見続けるのか不思議でした。
でも今振り返ると、祖父はその結末に至るまでの経緯を楽しんでいたのだと気づきます。
誰がどんな思いで間違いを犯し、どうやってそれを認め、どう人との関係を修復するのか——。
その過程こそが、時代劇が描く義理人情だったのだと思います。

武士道の「義」とは何か

武士道で語られる**「義」は、西洋のJustice(正義)や、中国的な法に基づく秩序とも違います。
西洋では、義はしばしば
「自分の信念を貫き通す」という個人主義的な側面で語られます。
一方、中国的な義は
国家や秩序のために個を律する**という色合いが強いでしょう。

それに対して、日本の「義」はもっと関係性に根差した概念です。
たとえ自分が損をしても、目の前の人とのつながりを守る。
立場を超えて相手に誠意を尽くす。
そんな柔らかさを持った「義」こそが、日本的な倫理観の特徴だと思います。

映画『覇王別姫』が描いたもの

先日、中国映画『さらば、わが愛/覇王別姫』を観ました。
この映画は、戦争と革命の激動の中で京劇役者たちが生き抜く姿を描いています。

第二次世界大戦が終結すると、中国では国共内戦が勃発し、やがて共産党が勝利します。
共産軍の兵士たちは今度は日本軍に代わって京劇小屋を占拠しますが、観劇のマナーも知らない粗野な兵士たちが舞台に上がり、怯える役者・程蝶衣(チョン・ディイ)を取り囲みます。
それを見た小樓は烈火のごとく怒り、こう言い放ちます。
「日本軍とてそんなことはしなかった!」

やがて蝶衣は、日本軍の高級将校の宴席で京劇を演じた「売国奴」として共産軍の法廷で裁かれます。
しかし蝶衣は毅然とこう語ります。
「日本軍は憎い。しかし彼らは私に指一本触れなかった。もし青木が存命なら、きっと京劇を日本へ持っていったでしょう。」

女性役を演じ続けた男優である蝶衣は、一切の自己弁護をせず、むしろ法廷を批判し、自らの尊厳を守る姿勢を貫きました。
このシーンは、戦争という極限状況でも自分を律し、他者への敬意を失わないことがどれほど尊いかを物語っています。
それはまさに、武士道にも通じる「義」と誠意の精神ではないでしょうか。

職人の気質と武士道の共鳴

私は風呂敷づくりの中で、そんな「義」を感じる瞬間があります。
捺染という染めの作業では、わずかな気温や湿度の違い、布の伸縮で発色が変わってしまいます。
夏の湿気や冬の乾燥にも対応し、空調も十分ではない工房で、職人さんたちは自分の快適さよりも出来上がる風呂敷のことを優先して作業します。

「正しいこと」というと大げさかもしれませんが、職人さんは口を揃えて言います。
「丁寧にしないと気持ちが悪い。」
それは、誰かに見せるためでも、評価のためでもなく、自分を律する心から生まれる行いです。

私はそういう心意気に、強く惹かれます。

国際社会の複雑さの中で

便利なネット社会では、私たちもAmazonで販売していますが、ワンクリックで世界中から物が届きます。
でも、その便利さの裏で、紛争や災害に苦しむ人々がいることも忘れられません。

実は最近、Musubismのお客様でイスラエルの方がいらっしゃいました。
文化的な風呂敷イベントで必要な書類を国際郵便でお送りしたのですが、その後、紛争が勃発。
荷物が届かないかもしれないという心配と同時に、イスラエルがパレスチナやイランを攻撃するニュースに胸がざわつきました。

平和を祈る気持ちと、文化を届けたいという思い。
その両方を抱えながら、私は「ものを選ぶ」という行為の重みを改めて考えさせられました。

Musubismの風呂敷に込めたもの

Musubismの風呂敷は、単なる布ではありません。
そこには、武士道に通じる職人の誠意、手間ひまを惜しまないこだわり、そして文化を結ぶ願いが込められています。

ものを選ぶということは、ただ買うことではありません。
誰が、どんな思いで作ったのかを感じ取り、その価値を受け取ること。
もしあなたがそんな思いを大切にしたいと感じてくださるなら、Musubismの風呂敷はきっとその気持ちに応えてくれるはずです。

義理人情の文化は、日本人の深い精神性そのもの。
そしてそれは、世界中で人と人とが理解し合い、尊重し合うための鍵でもあるのかもしれません。

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